メディア表現論(担当教官:水越伸)


ここで言う「メディア表現」とは、子どもたちを含めた一般の人々が、日常生活の文脈の中で行なうメディアに媒介されたコミュニケーション全般のうち、表現の領域を指しています。狭い意味でのアートやデザインの表現活動、作品などだけを指しているわけではありません。デジタル・メディア社会における人々の自己実現と、共同体の形成、維持、ネットワーク化のためには、メディア表現としてのコミュニケーション活動の充実を図ることが欠かせないと考え、このことについて実践的に考えることを目的としています。

授業は講義と演習をミックスしたかたちでおこなわれます。前半では、メディア表現、メディア実践について、メディア論、メディア・リテラシー論、メディア史、ローカル・メディア論などの観点を織り交ぜながら講義をします。またデジタル・ジャーナリズム、メディア・アートなどの領域の「達人」に来てもらい、それぞれの領域の可能性や課題を学んでいきます。

後半では、数名のグループを作って、具体的なメディア表現、メディア実践活動の企画立案をおこない、場合によればその実現を図っていきます。実践結果については、授業の最後に報告会をおこない、ウェブやパブリッシングなどを通じて広く一般に公開していく予定です。

思想的、批判的研究だけではなく、メディアに媒介された表現や実戦に興味がある院生の参加を望んでいます。


【2002年度のメディア表現論】

2000年度、2001年度と同様、講義と演習をミックスしたかたちで構成されました。すなわち授業の前半では、メディア表現論の思想的、実践的な系譜を明らかにするために、おもにメディア論、メディア史の観点から講義をしました。その後、メディア・アート、NPO、ジャーナリズムなどの領域でメディア表現の実践を行う「達人」にお越しいただき、それぞれの領域の可能性や困難を学び、議論をしました。

後半では、大学院生約20名が5つのグループに分かれ、何らかのメディア表現を企画しました。その成果として社会教育、NPOその他の現場の受け皿の中で実践を展開しました。

2002年度のメディア表現論から生まれた5つの実践プランをご紹介します。

  • チーム・アニメディア
    粘土アニメを用いた、メディア・リテラシーについてのワークショップ。伝統的な連歌や、メディア・アートの「連画」プロジェクトのようにして、複数のチームが粘土アニメをつないでいく中で、映像作りの意味をより深く考えてもらうという仕掛けがあります。
  • アジテーター・チーム
    日本人は公共の場で発言が少ないと言われます。それは言いたいのに言えないのか、言うべき何かを持たないのか。このチームは公共的な空間において、自分の言いたいこと、表現したいことを、それに見合ったメディアを自分の手で作って表現してみるという、メディア論的な試みに挑戦しました。東京学芸大学付属中学校で実践。
  • ブン屋チーム
    シニアと子どもという異世代の人々をインターネットで結び、ウェブ学級新聞作りソフトを活用して相互交流を生み出していこうという実践プログラム。お年寄りと子どもという、ともすればステレオタイプになりがちな属性をひっくり返していくことまで仕掛け、お茶の水女子大学付属中学校とアクティブ・シニアのグループを結びつけて進められました。
  • OCT(オンライン・コラボレーション・チーム)
    教室には来られない社会人がiii onlineをフルに活用して進めたプログラム。インターネットの普及とデジタル化のはざまにおかれたコミュニティFMに焦点を当て、この小さなメディアがおかれた現状と課題を整理し、現実的な提言をおこなうというプランニング型の成果を出しました。
  • ゆけむり5。
    2002年度「情報リテラシー論」から生まれた「ゆけむり事件の謎」は、NHK番組として制作、放送されました。そのプロセスを振り返りながら、放送のプロと一般市民が共同で番組を制作するためのさまざまな課題を克服するガイドライン作りを進めました。


e-ラーニング対応の新しい「メディア」へ

 2002年度、メディア表現論は、iii onlineというウェブを活用したe-ラーニングに対応しました。iii onlineは、メディア教育開発センターと情報学環が協力して実現した、東京大学ではじめてのe-ラーニング授業カリキュラムです。この活動の中心には山内祐平と中原淳がおり、メルプロジェクトの関連プロジェクトとしても位置づけられています。

 2002年度のiii onlineでは、「メディア表現論」をはじめとする4つの授業の映像、資料などが一般に公開されました。掲示板システムへのアクセスは履修している大学院生のみに限られていましたが、山内によれば2002年度のiii onlineへの累計アクセス数は100万を超え、「メディア表現論」だけでも数百人から千数百人の一般の方々の「固定客」がいたということです。e-ラーニングは確実に、教室の補完でも、テレビのかわりでもない、新しいメディアになりそうです。

 なお、2003年度には情報リテラシー論もiii onlineに対応しています。
 

【関連リンク】

●iii online:http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/online/