民放連メディアリテラシー・プロジェクト


2001−02年度にかけて、東京大学大学院情報学環メルプロジェクトと日本民間放送連盟(民放連)が共同で行なったメディア・リテラシー活動のパイロット研究。「送り手と受け手が放送メディアを学びあう、新しい場を地域社会の中に作る」ことを目的として、地域の放送局と学校をむすび、テレビ番組の制作やメディア表現活動を行なった。大学とマスメディアが連携して行なったこのパイロット研究は、以下の国内4地区において実践された。


■長野実践

メンバー:
テレビ信州 今村正大(2001年度のみ)、平坂雄二、湯田邦彦、小島壽一、村澤圭一
教諭 室井美稚子、栗山嘉章、宮尾久枝、小林清美
メルプロジェクト 林直哉(統括コーディネーター)

長野実践は、テレビ信州が地方局として行なってきた送り手のメディア・リテラシー活動の延長上に、受け手の想いを放送局として引き受け。取り込んだかたちで始まった企画である。長野モデルは「長野県民のお年寄りから子どもまで、ちょっとした話題や番組を持ち込めば何とかしてくれる、と言われる局になりたい」という今村正大氏(2001年度局側担当責任者)の言葉に象徴される。この言葉には、地方局が視聴者とのギャップを少しでも埋め、

  1.  放送局の敷居を低くすること(作られた権威も含む) 
  2. 受け手がテレビメディアの特性を理解し、うまく放送局を使おうとすること 
  3. 地方局が、本来の意味で地域コミュニティのためのメディアになること

の3つの意味が含まれている。地域とかけ離れていた地方局が、地域のために存在するメディアに変身していく営みとして、放送局におけるメディア・リテラシーの価値がある。しかし、テレビにおける送り手と受け手のギャップが一地方局の努力で短期間に埋められるものではない。心配しているよりもトライアンドエラーで高めていくことが重要であると合意し、民放連プロジェクトを含むテレビ信州のメディア・リテラシーの実践は2年間持続的に行なわれた。民放連プロジェクト・長野実践は次のような内容である。

企画

「紹介番組を作ろう」

「ニューススタジオを作ろう」

「4回の研修会」

「子ども番組審議会」

目的

映像番組の特性を知る

放送の特性を知る

送り手としての学習

プロジェクトの評価と展開

「総合的な取り組み」という視点から、視聴率向上や局のイメージアップ、パブリック・アクセスの可能性を織り交ぜ、異なった目的を持つ企画を有機的に結びつけて行なってきた。

2001年度のプロジェクトに参加した視聴者のチャンネル選択は、放送局に対するイメージの変化による新しい基準(応援団的な感覚)によってなされるように変化した。対象校が年間10校は驚異的な数であるが、局側のメリットを引き出すためには、局を応援してくれる人を増やす仕掛けをフルに活かす必要もあった。

【関連リンク】

●テレビ信州:http://www.tsb.co.jp/
 


■愛知実践

メンバー:
三浦学園春日丘中学 石田裕美(国語科講師)、清水宣隆(国語科教員)
東海テレビ放送 松井大地(記者)、近藤威(カメラ)、奥田繁(編集)、春田亮介(デスク)
メルプロジェクト 上杉嘉見、小川明子(統括コーディネーター)

「つくることで知るテレビ」

  1. ニュース企画を考える
    ひとつの企画ニュースを題材に、春田デスクからニュースができあがる過程について教えてもらい、(中学生として)どんなことをニュースにしたいかを考えた。
  2. 番組企画から構想へ
    出てきた案のなかから、テーマを決める基準について局の記者から説明を受け、本当に番組にできるかどうか、取材可能かどうかなどを話し合った。その結果、テーマは「お弁当」と決まった。
  3. 構成づくり 取材・撮影の準備
    番組作成に必要なシーンを「構成カード」に書き出し、並べかえることでストーリーを作り出してみる。記者が大まかな案を出し、それについてどういう意味が生まれるか、どんな印象を受けるかを討論した。
  4. 取材・調査
    実際のお弁当作り風景を取材したり、生徒の意見を取材したりする一方、全体としてどのような傾向があるかを構成班がアンケート調査。
  5. ナレーション・粗編集
    取材したものをもう一度見直し、どんなシーンが撮影できたかをカードに書き入れる。次に、そのカードの並べ方を考えながら、ナレーションを作成した。
  6. 完成、学習のまとめ
    粗編集を終えたものを全員で視聴し、テロップや音楽などの仕上げについて討論。その後、出来上がった番組を見て、生徒達はテレビの作られ方やその難しさ、限界などについて考える。

【関連リンク】

●東海テレビ放送(動画あり): http://www.tokai-tv.com/news_program/media/main/main/index.html
 


■宮城実践

メンバー:
東日本放送 長谷部牧(制作部プロデューサー)、伊藤元博(報道制作局次長兼制作部長)、番組制作スタッフ約6名
宮城県南方町 田口文俊(南方町役場商工観光課主事)
ボランティア・サークル「天の川」の高校生11名
せんだいメディアテーク 小川直人(企画・活動支援室学芸員)
メルプロジェクト 山内祐平、境真理子、林田真心子、坂田邦子(総括コーディネーター)

宮城実践の背景

民放連プロジェクト2年目にあたり、長野県、愛知県に続く実践地区として選ばれたのが、福岡県と本実践を行なった宮城県である。宮城実践は、テレビ朝日系列の東日本放送(KHB)と、仙台市から北へ車で1時間半の登米郡南方町の高校生を中心としたボランティア・サークル「天の川」(以下、通称「ジュニアリーダー」)とのテレビ番組の共同制作を中心に、仙台市にある「せんだいメディアテーク」という美術・映像文化の振興を目的とした複合的な公共文化施設とメルプロジェクトを含む複数の組織による協働的な活動となった。その背景には、昨年度の実践において明らかになった学校教育を中心としたメディアリテラシー教育という枠組みの限界や問題点がある。本実践ではこれらを踏まえて、学校という枠組みを取り払った時の新たな可能性について考えるとともに、せんだいメディアテークという公共文化施設に関与してもらうことによって、これまでの「テレビ局対学校」という二項対立的な関係の中で生じるジレンマを乗り越え、公共文化施設を媒体としたメディアリテラシー活動の新たな可能性について考えることを目的とした。

宮城実践の特徴とねらい

  1. 「ジュニアリーダー・サークル」という町内の高校生・中学生で構成されるボランティア・サークルが主体となることにより、学校というある種の閉鎖的な空間から飛び出し、自分たちの暮らす地域の中での番組制作を通じて、学校という場を介在しないメディアリテラシー活動の可能性について考えると同時に、地域社会とメディアとの関係性について考えるなど、これまでになかった新たなメディアリテラシー活動の可能性を追求する。
  2. VTRの制作だけでなく、生中継のスタッフ、出演者として番組制作に関わることで、記録・編集したうえで放送される映像とそのままリアルタイムで放送される映像の違いについて考える。
  3. せんだいメディアテークという公共文化施設が、子供たちと局の間に入ることによって、ともすれば局から子供たちへという一方向的指導になりがちなやり方を見直し、問題を相対化するとともに、学習的効果を高める役割を担う。また、せんだいメディアテークの参加を通じて、公共文化施設を媒体としたメディアリテラシー活動の地域的・社会的な定着の可能性を考える。

各組織の役割分担と協同

  • 東日本放送(KHB) ジュニアリーダーと共同で、KHBの夕方ワイド「あなたにCue」で放送するためのVTR制作と生中継を行なう。その過程で番組制作に関する指導を適宜行なう。
  • せんだいメディアテーク(SMT) 子供たちの振り返りと学習のために、番組制作過程の要所要所に挿入されるせんだいメディアテークでのワークショップをコーディネイトする。ワークショップでは、KHBおよびMELLからも講師という形でレクチャーや指導を行なう。
  • メルプロジェクト(MELL) 全体のとりまとめとサポートを行なう。これまでの経験をもとに、番組制作、ワークショップについて各組織への相談窓口となるとともに、全体の関係性の調整を行なう。

番組の概要 

番組名 「夕方ワイド あなたにCue」第1部
放送日時 2月11日(火・祝)17時〜18時
内容 「あなたにCue」の特別企画として40分規模の生中継番組を実施。南方町ボランティア・サークル「天の川」(以下「ジュニアリーダー」)の高校生メンバー11名が中継カメラ(1台)、司会、フロアディレクターを分担した。柱は、地場産品「もっこりラーメン」をめぐるビデオ。町の特産品として売り出している「もっこりラーメン」だが、ジュニアリーダーのメンバーはあまり美味しいとは思っていない。そこで、町内、町外で試食アンケートを実施し、果たしてこのラーメンの味は受け入れられるかどうかを調べた。また、製麺所や、原料である「もっこりニラ」についてのリポートをビデオにまとめた。

         

【関連リンク】

●東日本放送:http://www.khb-tv.co.jp/
●宮城県南方町:http://www.town.minamikata.miyagi.jp/
●せんだいメディアテーク:http://www.smt.city.sendai.jp/


■福岡実践

メンバー:
RKB毎日放送テレビ編成局編成部 宮本稔
RKB毎日放送報道部、映像取材部、テレビ制作部の皆さん
子どもとメディア研究会メディアキッズ責任者 高宮由美子
子どもとメディア研究会事務局長 大谷順子
メディアキッズ及び関係者の皆さん
台湾政治大学附設実験小学教諭 張麗華
台湾政治大学附設実験小学六年生の皆さん
台湾政治大学傳播学院副教授 呉翠珍
台湾政治大学媒体素養研究室の皆さん
メルプロジェクト 水越伸 劉雪雁(総括コーディネーター)ほか

「アジアの玄関」といわれる福岡の地域特性を活かし、RKB毎日放送が局内的に交流の実績のある台湾の子どもたちと福岡の子どもたちを結びつけた異文化交流を縦糸に、それを編み合わせる横糸としてメディア・リテラシーの実践を進めることは、福岡実践の特徴といえよう。

福岡実践の参加者

福岡のメディアキッズから、小学校6年生と中学1年生を中心とした子どもたち18名(最年少小学校4年生、最年長高校1年生)が実践に参加し、子どもたちは自分たちのグループ名を「メディアキッズ明太子」と名づけた。

一方、台北の政治大学付属実験小学校の6年生は全部で2クラス計70人がいる。2002年9月から2003年1月までの学期中、「真実と再現――中日児童媒体素養表現創作実践プロジェクト」(台北での福岡実践の呼び方)が、「芸術と人文」授業の枠内(毎週火曜日午前10:30〜12:00、午後1:30〜3:00)で実施されることになる。授業であるため、6年生全員が参加するが、そのうちの18名を福岡と交流するチームとして指定された。

福岡実践のプロセス

半年以上にも及ぶ福岡実践のプロセスには、「他者のまなざしを理解する」、「メディアの介在・構成」に気づく、「メディア表現をし、反照する」という、学習目的および作業が異なるいくつかの段階が含まれている。

第一段階:イメージコラージュ作り(2002年9月16日〜9月末)

1.作業と学習目的
「福岡のなかの台北を探そう」、「台北のなかの福岡を探そう」
福岡と台北の子どもたちが、日ごろ触れているマスメディアやインターネット、街中の広告、身の回りの用品などから、相手の都市のイメージを採集してコラージュし、それを相手の都市の子どもたちに送る。⇒リサーチから始まる

第二段階:イメージコラージュ解読(2002年10月6日〜10月26日)

2.作業と学習目的
「イメージと現実の違いを見極めよう」
相手から送られてきたイメージコラージュには、そのまま納得できるイメージもあるだろうが、一方で歪曲されていたり、おかしくなっていたりするイメージも少なくないはず。メディアが映し出す都市のイメージと、自分たちが実際に生活している都市のリアリティの違いを理解していく。⇒発見の喜び

第三段階:ビデオ作り(2002年10月26日〜2003年1月25日)

3.作業と学習目的
「福岡紹介ビデオを作ろう」、「台北紹介ビデオを作ろう」
第二段階のディスカッションを踏まえつつ、自分たちの街の紹介ビデオを作成する。マスメディアに現れない自分たちのリアリティをビデオで表現する。⇒発信する

第四段階:双方の作品交流。ビデオ解読(2003年2月11日〜2月15日)

4.作業と学習目的
相互に作品を見ることによって、マスメディアに映し出されない自分たちのありのままの生活を再認識する。作品および実践活動全体に関するディスカッションを通じて、メディアに対する理解を深めていく。⇒将来に向けての土台作り
メディアキッズ明太子が作ったビデオ作品と、子どもたちが実践に取り組む姿を記録した映像が、2003年2月28日に、RKB毎日放送の夕方生活情報番組「夕方どんどん」でオンエアされた。

実践スケジュール

  • 準備段階
    2002年7・8月 企画素案完成。RKB毎日放送、子どもとメディア研究会およびメディアキッズ明太子、メルプロジェクトの三者が実践の体制と段取りを確認。台北側の体制とスケジュールが決定。

  • 第一段階
    2002年9月 実践スタート。RKB見学。チーム分け。資料集め、イメージコラージュ作り。台北へ送る。

  • 第二段階
    2002年10月 台北から送られてきたイメージコラージュを解読。オンラインテレビ会議。

  • 第三段階
    10月 ビデオ作りのテーマを決定。絵コンテ制作。
    11月 メディアキッズ明太子がRKBで研修。取材、撮影の下見。絵コンテと取材台本を完成。
    12月 メイン取材。
    2003年
    1月 編集方針決定。ビデオ編集。カンパケ。作品完成し台北へ送る。

  • 第四段階
    2003年2月 台北から送られてきた作品を解読。実践の総括。オンエア。

【関連リンク】

●特定非営利活動法人子ども文化コミュニティ:http://www.kodomo-abc.org/
●台湾政治大学コミュニケーション学院媒体素養研究室:http://www.mediaed.nccu.edu.tw/
●台湾政治大学附属小学校教諭張麗華先生の芸術と人文サイト:http://idv.creativity.edu.tw/ortus/modules/news/