MEDIA LITERACY[2001 December]


メルの環 連載第8回
「アジアの不思議」
−映像クイズで国際交流!!

Writer 坂田邦子 Kuniko Sakata(東京大学大学院 社会情報研究所 博士課程1年 )

「アジアの不思議」は、中国・韓国からの留学生を含むマルチ・カルチュラルな背景を持つメンバーがそれぞれの交流や体験をもとに企画・構成した、メディア・リテラシーと異文化理解に関するカリキュラムである

プロジェクト・メンバー
可越:
東京大学大学院 学際情報学府 修士課程1年
中野理恵:
東京大学大学院 学際情報学府 修士課程1年
崔銀姫:
東京大学大学院 社会情報研究所 博士課程1年
小川明子:
東京大学大学院 社会情報研究所 博士課程1年
坂田邦子:
東京大学大学院 社会情報研究所 博士課程1年  

「アジア・ブーム」と
メディア・リテラシー

最近、「オシャレなアジアン・インテリア」とか「癒し系、アジア」などのコピーをよく耳にする。旅行代理店には、アジア・リゾートのパッケージツアーのパンフレットがズラリ。デートに誘うなら、「フレンチ」よりもだんぜん「ベトナミーズ」。そんな消費文化的な「アジア」が若い人たちにすんなりと受け入れられていく一方で、「大人たち」は、マスメディアで報道される途上国アジアの政治混乱や歴史教科書問題など、コムズカシイ政治経済的な話題に物知り顔で首を振る。メディアや商品を通して「アジア」のイメージは様々に映し出されているが、次世代の日本とアジアとの関係を担っていくはずの若者たちが、ある種偏りのあるこのようなイメージだけで、「アジア」に関する知識を積み上げていくことに問題はないのだろうか?  

彼らがアジアの隣国の歴史や文化を学び理解しようとするとき、多様な意図を内包しながらも情報を伝達し「アジア」のイメージを映し出すメディアが必要不可欠なツールとして準備されている。だからといって、メディアによるこれらのイメージをすべて批判することが必ずしもメディア・リテラシーではない。重要なのは、様々な意図や権力が複雑に絡み合うメディアというものの限界に気づくこと、そしてアジアの若者たちが、そんな「大きな力」に支配されることなく、彼らの文化や価値観をお互いに理解し、尊重しあうための草の根のコミュニケーション回路を確保することだ。  

「アジアの不思議」では、自らメディアを使って情報を表現・発信するとともに、受け手となる相手国の同世代の若者たちと、ウェブ(掲示板や電子メール)を介して交流を行う。その過程を通じて、ディスコミュニケーションの危険性を排除できないメディアや言語の特性に体験的に気づくと同時に、これまで抱いていた相手国のイメージと現実とのギャップを認識することにより、若い人たちが本当の意味でアジアを理解するための相互コミュニケーションの回路を実現していくことを目的とする。

クイズで国際交流
−アジアは不思議でいっぱい

 「アジアの不思議」は、映像クイズとウェブを使ったメディア・リテラシーと異文化理解のための学習カリキュラムである。例えば、韓国と日本の学校の生徒が、それぞれ実際に短いクイズ映像を制作し、これをウェブサイトに載せ、BBSを使ってお互いのクイズに答えながらのやりとりをすることで、異文化交流を試みる。

クイズのテーマ決定
−日本の「不思議」発見

 クイズのテーマは、日本独特の文化や慣習に関するものから、価値観や概念に関する抽象的なものまで、学年やレベルに応じて設定することができる。例えば、小学生なら、茶道用の茶筅やそれを実際に使っている映像(もちろん写真でもいい)を撮って、「これなーんだ?」とすることができるし、高校生ぐらいで、少し映像を撮るのに慣れてくれば、「愛」とか「平和」といった抽象的な概念を映像で表現し、このキーワードを解答にすることもできる。いずれにしても、生徒たちが「これって、韓国の人は知らないよね」とか「こんなことって絶対日本人しか考えてないよね」と思い込んでいる日本の「不思議なモノ・コト」を2分程度のクイズ映像として制作するのがこの課程の目標である。アジアにはそんな「不思議」がきっとたくさんあるはずだ。


 「アジアの不思議」ウェブサイト。今回は日本語版と
  韓国語版を準備

映像制作と作品発表会
―映像による表現方法と伝達することの難しさを学ぶ

 クイズのテーマが決定したら映像制作に入る。クイズという短い映像なので、伝えたい情報がたくさんあっても限られた時間内で表現しなければならない。これを入れるとあっちが入らない。これを伝えるためにはあのカットも必要。そんな試行錯誤を繰り返しながら構成表を作り、撮影にでかける。そして編集を繰り返しながらため息をつき、「テレビ局の人って大変なんだなー」とつぶやくことだろう。そう思ってもらえれば第一段階はクリアだ。そして出来上がった映像クイズを作品発表会でクラスのみんなにお披露目する。この一連の過程を通じて、映像を通じて身近な情報を多くの人にわかりやすく伝えることの難しさと表現する楽しさを体験すると同時に、自らが表現者・発信者となることで、普段接しているマスメディアの限界や問題点について認識してもらうことがこの課程の目標である。

異文化交流
―文化の違いや共通点を学ぶ

 ここでは、それぞれの国で制作した映像をウェブに載せ、BBSを利用して実際にクイズの解答と質疑応答を行う。もちろんBBSでのやりとりは、クイズの解答から逸脱してお互いの文化について多角的な視点から語りあう場となることを想定している。このやりとりを通じて、日本特有だと思っていたことが実は相手国にもあったり、当たり前だと思っていたことがそうでなかったり、ということに当然出会うはずである。

自分たちが抱いていた相手国のイメージと現実とのギャップを認識することで、これまでメディアが伝えてきたもの、自分たちが本当に伝えていきたいことについて改めて考えてもらいたい。また、文化を跨いだメディアの作り手と受け手という立場を同時に体験することによって、言語だけでなく文化を翻訳することが相互理解にどのように影響するのか等、メディアを通じた異文化コミュニケーションの限界とさらなる可能性について考える機会としてもらいたい。


 長野西高校の生徒が制作した「食事のマナー」から
  「迷い箸」はよいマナー?それとも悪いマナー?

日本と韓国の「不思議」
−長野西高校、南洲高校、慶北外国語高校における実践

 上記のカリキュラムは、2001年8月から長野の県立長野西高校、韓国の南州高校および慶北外国語高校との間で実践が行われており、現在も継続中である。長野西高校では国際交流科の生徒たちが、宮尾久枝先生の指導のもと、第1回ワークショップを経て、すでにクイズ映像の制作と第2回ワークショップ(映像作品発表会)を終了している。韓国の南州高校、慶北外国語高校の両校でも、すでに第1回ワークショップを終了しており、現在は映像制を行っている。

長野西高校での第1回ワークショップでは、みんなが抱いている「アジア」のイメージが主としてマスメディアから作り出されていること、草の根的なコミュニケーションの必要性などについて議論した。そして、その後の映像作品発表会では、長野西高生たちの想像/創造力に驚かされた。「剣道」「巫女」のように日本の伝統文化をテーマにしたグループもあったが、「納豆」や「食事のマナー」(写真参照)「携帯」「駅」といった日常何気なく食べたり使ったりしているものを取り上げて、クイズに仕立てたグループも多かった。ただし、テーマによっては、結局はステレオタイプを再確認するだけではないかという危惧がないわけではない。この問題を回避するためにも、映像のやりとりだけではなく、その後送り手と受け手の間に直接対話の機会を持つことが重要な意味を持つだろう。  

交流はまだ終了していないが、これまでの活動に対して、長野西高校生からは「普段私たちはすでに出来上がっている映像を見ているだけだけど、それをつくるまでにはとても多くの時間もかかるし、細かい所まで注意しないといけないということが分かった。放送班やテレビ局の人の大変さが分かった」、「メディアの作り手が伝えたかったことが、受け手にうまく伝えられるかが問題だと思う。異文化の人々にうまく伝えられるような工夫が必要だと思った」、「送り手と受け手の間に誤解が生じることがあるのが問題」などの意見が出された。このような体験をもとに、今後も異文化理解とメディア・リテラシーの関係についてさらに議論を深めてもらいたいと考えている。

これからの「アジアの不思議」
に向けて

 今回の実践は、以前から精力的に国際交流活動をしてこられた宮尾先生の経験やネットワークもあり、比較的順調にカリキュラムを展開することができたが、まだ実用化に向けて、言語やウェブ環境等の若干の課題が残っている。ただし、経験や情報をストックし、ネットワークを広げていくことにより、国際交流の経験があまりない学校でも「アジアの不思議」を利用して、気軽に海外の学校と交流を行えるようになることが私たちの目標でもある。

今後「アジアの不思議」は、「MELL PROJECT」のサブ・プロジェクトでもある、アジア域内の映像による国際交流を目的とした「ASIA IMAGE NETWORK (AIN)」にマネージメントを委ね、さらに発展していく予定である。また「アジアの不思議」は必ずしもアジアに限らず、「地球の不思議」または「沖縄の不思議」「私の町の不思議」などと応用させることも可能だろう。「アジアの不思議」は、様々な文化的背景を持つ人々にとっての出会いのフォーラムとなることを目指している。 (http://mell.iii.u-tokyo.ac.jp/asia/)

 
 
 

「アジアの不思議」プロジェクトを実践して・・・長野県長野西高等学校 英語科 宮尾 久枝  

メディアリテラシーと異文化理解を体系的に学ぶというこのプロジェクトは始まって間もないが、生徒の中に大いなる変革を起こしつつある。まず映像クイズのテーマを設定するため「韓国にはない身近な日本文化は何か」ということをリサーチすることから始まったのだが、韓国文化に関する文献調査、インターネットによる情報検索、更には韓国からの信州大学留学生へのインタビュー等の生徒の主体的な活動を経て、先入観から「かなり異なるもの」と思われた韓国文化に日本文化との多くの類似性を見出すという結果となった。これは生徒にとっては大変な発見で、異文化とはいえ日韓の文化が相互に影響し合ってきたことに気づき、同時に果たしてそれは表面的なことが主なのかという疑問につながっていく。更にリサーチを重ねることで歴史的観点からこの交流の意義を認識した生徒も多く、韓国の生徒との異文化交流への強い動機付けとなったといえる。  

映像制作を通じてメディアの送り手となるという体験は殆どの生徒にとって初めてのことだったが、受け手から送り手へという立場の逆転を通じて得たものは貴重で、誰もが制作に関わって初めて、送り手の意図する通りに情報を伝えることは容易くないことだと納得する。しかし生徒にとって実際の制作活動は実に面白かったようで、ほんの数分の映像クイズを制作するのにグループ全員が撮影から編集までかなりのめり込んで何時間もかけたものも多かった。この過程が重要で、制作に関わった生徒に聞いてみると、様々なメディアから発信される情報に対して受け取り方の意識が以前と比較してはっきり変わったと断言している。すなわち、このプログラムを実践することで、送り手の視点を踏まえつつ発信された情報に対して自分はどう考えるのかといった所謂メディアを批判的に読み解く習慣を無意識のうちに身に付けることができたと思われる。  

お互いの価値観の違いを認識して尊重しあうという観点からメディアリテラシーと異文化交流は非常に関連性があり興味深いが、メールの交換やウェブ上のBBSでの意見交換は生徒の英語学習への動機付けという点でもかなり有効である。このプロジェクトに対しては日韓両国の生徒とも大変な関心があり、今後草の根の異文化交流として継続していくにあたって様々な点で大いなる可能性があると確信している。

 
 

 

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